たたらが息づく奥出雲
良質な砂鉄が採れることから、
古来より製鉄の操業が盛んに行われた、島根県奥出雲町。
たたら製鉄がもたらした文化や伝統は、
奥出雲の日々の暮らしの中に息づいています。
出典「公益財団法人日本美術刀剣保存協会 日刀保たたら」
粘土、砂鉄、木炭、風。
自然の恵みで燃え上がるたたらの炎
1400年の歴史をもつ、日本独特の古い製鉄方法である「たたら製鉄」。
粘土製の炉に砂鉄と木炭を交互にくべ、たたら(足で踏んで風を送る大きなふいご)で送風して
熱を上げると、炭素の還元力が砂鉄から酸素を奪い、純度の高い鉄が生まれます。
三日三晩、不眠不休で行われるたたら操業では、約2.5トンの鉄の塊(鉧・けら)をつくるのに、
熱源となる木炭約12トン、原料の砂鉄約10トンが必要といわれており、
この大量の木炭を調達できる豊かな森林資源と良質な砂鉄があることから、
奥出雲では古来より製鉄業が栄えてきました。
現在では、日本刀の材料となる上質の鋼「玉鋼」を日本で唯一製造する「日刀保たたら」が、
たたら製鉄の伝統を受け継いでいます。
金屋子神社Kanayago shrine
良鉄の生産を祈願し、
たたらの守護神を祀る金屋子信仰
白鷺に乗って、桂の木に降り立ち、人々に鉄づくりの技術を教えたとされる金屋子神を祀り、
製鉄や鍛治など鉄に関わる人々の信仰を集める「金屋子神社」。
島根県安来市にある総本山には、関係者をはじめ県内外の参詣人が数多く訪れます。
奥出雲でも、たたら操業を担った絲原家や櫻井家には、今も「金屋子神社」が佇んでおり、
良鉄の生産、安全操業を祈願する金屋子信仰の深さが伺えます。
棚田の風景Rural landscape
鉄穴流し(かんなながし)の
跡地が生んだ美しい棚田
たたら製鉄の原料となる砂鉄は、山を切り崩し、土砂を水路に流し込む「鉄穴流し(かんなながし)」という方法で採取されました。
現在、奥出雲町のいたるところで見られる美しい棚田の風景は、この跡地を再生したもので、特産品「仁多米」の生産に役立てられ、今に至ります。
砂鉄を採取するために引かれた水路も農業用水としてそのまま使われており、奥出雲の農業の発展に寄与しています。
たたらの恵みLocal culture
奥出雲の自然と、
たたらがもたらす新たな産業
砂鉄を採取するため「鉄穴流し(かんなながし)」によって切り開かれた大地や、
炭を焼いた山林で生産されたソバは、日本三大そばのひとつである「出雲そば」となっています。
炭の運搬など輸送の手段として飼われるようになった牛は、やがて「奥出雲牛」として食肉用に発展。
鉄穴流し跡地を拓いた棚田は、牛の堆肥で豊潤な土壌となり、日本を代表する「仁多米」が育まれました。
鉄で栄えたこの地では、商いが盛んになることでそろばんの需要が高まり、「雲州そろばん」の産地として発展しました。
ヤマタノオロチの神話で、スサノオノミコトが降り立ったといわれる
船通山の麓にある秘湯・斐乃上(ひのかみ)温泉は、「日本三大美肌の湯」としても有名です。