金屋子神
とても嫉妬深く、血と女性を忌み嫌ったため、たたら場に女性が入ることを禁忌とし現在もたたら操業の作業は男性のみで行われています。
出典「島根県安来市 和鋼博物館」
製鉄の女神がこぼした涙
《TATALITE タタライト》
自然の恵みで鉄をつくる日本古来の製鉄方法「たたら製鉄」。
粘土でつくった炉に、砂鉄と木炭を入れ、吹子から送られる風で燃え上がる炎。
三昼夜かけて行われるたたら操業で生み出されるのが、鉧(けら)と呼ばれる鉄の塊です。
その中から炭素量によって使い道が分けられますが、中でも特別な部位が「玉鋼(たまはがね)」。
この神秘の鋼によってのみ、世界に知られる日本刀がつくられるのです。
TATALITEは、実はその対局ともいえる素材。たたら操業で燃え上がる炉の中から流れ落ちた副産物です。
炉壁の粘土が、砂鉄や砂と化合した、気泡を多く含むガラス質で、唯一無二のユニークな表情が魅力です。
たたら製鉄を奥出雲の地に伝えたとする金屋子神(カナヤゴカミ)にインスピレーションを得て、
たたらから生まれたこの溶岩状の副産物「鉄滓(てっさい)」を女神の涙と見立て《TATALITE タタライト》と名付けました。
鉄滓=TATALITE
- 製鉄の炉の中から流れ落ちたTATALITE原石
- TATALITE特有の多孔質感を残した加工例
- 研磨を施し、深い光沢を出した加工例
「初花」とは、鉄を精錬する際、たたら炉から最初に流れ出る鉄のこと。
当時の工人たちは、良質な鉄が大量に生産されることを願い、
「初花」と呼んで、額や絵馬に仕立て、神前に捧げたといわれています。
TATALITEも、たたら操業の際、初期の段階で生成される物質(鉄滓)です。
たたら操業を取り仕切る「村下(むらげ)」と呼ばれる技師長は、
炉から立ち上る炎の色や、砂鉄が溶け出す音、匂い、熱などを五感で感じ、
たたら炉から流れ出る鉄滓の様子などさまざまな状況を見ながら、
炉の中の鉄の育ち具合を見極めるそうです。
一子相伝門外不出の村下の技で、砂鉄と木炭の投入量や場所、
送風具合などが微妙に調整され、良質な鉄が生み出されていきます。
100年の眠りから覚めた絲原家の
《TATALITE》
本プロジェクトで使用する《TATALITE》は、大正10年(1921)まで約280年間にわたり、
たたら製鉄を担い、藩政期には鉄師頭取も務めた由緒ある絲原家よりご提供いただいた貴重な素材です。
その後、洋式製鉄の普及により家業を山林業に転換しましたが、今でも絲原家の敷地内には、
たたら製鉄の名残ともいえる鉄滓=TATALITEが残っているといいます。
今回初めて、この絲原家に100年以上も眠っていた歴史の証に新たな息吹を吹き込みます。